N6546BL-34
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第4話

第4話

 お待たせいたしました。
 日本中の諸国から神々が姿を消し出雲に集まる10月を旧暦で神無月(かんなづき)と呼ぶそうでございます。地域を守る土着神が居なくなったこの期間はいったい何者が蔓延(はびこ)るのでございましょうか。鬼か魔か、おそらくは邪悪な者たちが台頭(たいとう)してくるに違いありません。神々の加護無くして人はどのようにして身を守るべきなのでしょうか。9月30日は「神送り」の日とされ、御馳走を供える風習もあるそうでございます。今年はまたどれほどの数の生贄が捧げられたことでしょうか。1800万人の犠牲者を横目に神々は何を想われるのでございましょう・・・。人は人の力を持ってして魔と対峙しなければならない月(さだめ)なのでございます。再び神に祈るのは一か月後になりそうでございます。
 さて、層雲峡(そううんきょう)脱出編のお話を進めていきましょう。

 10月1日の成果としましては、2階の食事処の厨房に1名の女性が潜んでいることを発見できたことだけでしょうか。このホテルの従業員で名前を李(り)さんという方でございます。彼女の話では1階にある大浴場にも生存者がいるらしいということでした。大浴場の脱衣リーバイス 503
リーバイス ジーンズ
リーバイス 517
室は私たちの部屋810号室の真下にあたります。その人たちと上手く連携できれば脱出の際に大きな力となりそうです。私は丸一日をかけてホテル中の部屋に一往復、二往復と内線電話をしてみましたが繋がったのは李さんだけでございました。李さんとはその後も定期的に連絡を取り合い情報を交換しております。李さんはとても素直で話もしっかりとできる女性でございましたから私としても頼もしい協力者を得ることができたと喜んでおりました。彼女は日本人と中国人の両親を持つハーフで歳は22でございました。20歳まで中国の田舎で暮らし、日本に移り住んでから2年が経過しているそうです。1年間は札幌に住んでいたそうですが、訳あってこの層雲峡に住み込みで働くようになったそうでございます。ほとんどの従業員が犠牲になっている中で運が良かったと電話の向こうで涙ながらに神に感謝しておりました。
 生存者は発見できたものの、ホテルの正面玄関側、駐車場がある方の様子をどう確認していくのかは解決しないままでございました。こうなると方法としては私自らが強行して探索に向かうか、狂信者のような高橋守(たかはし まもる)と連絡を取り合うか(彼の安否は確認しておりませんが)の二つに絞られます。依頼されていた石和麻由希(いさわ まゆき)さんを死なせてしまった罪悪感もありましたし、その後の彼から送られてくるスマートフォンのメッセージの歪んだ内容から正直彼に私たちの生存を知られたくないという事情もありました。気づかれると彼はずかずかと私の世界と計画に踏み込んでくるに違いありません。もしかすると石和さんの死を知って私たちの脱出を妨害し、直接危害を加えてくるかもしれないのです。彼との連携が脱出の可能性を高めるとは思えませんでした。そうなると、危険を顧(かえり)みず偵察に赴(おもむく)くより他に無いのでございます。
 この案は妻に真っ向から否定されました。当然でございます。脱出同様の危険な行動になるからでございます。代案として妻が、
「その女(ひと)にお願いして高橋に連絡を取ってもらえし。」
なるほど、その手がございました。私は早速次の定期連絡の時間を待って電話をします。それ以外の時間は互いの受話器をはずしておく約束になっておりましたからすぐにとはいかないのでございます。10月2日の早朝6時に私はその旨を李さんに伝えました。もちろん私たちのことは伏せて話してもらうことも確認済みでございます。
その日の昼12時に再度李さんと連絡を取り合いました。
「どうでしたか。高橋さんとは連絡できましたか。」
「はい。取れました。生きている人から電話があって高橋さんはかなり驚いていました。何度も石和麻由希さんという人の事を聞いてきました。」
やはり生きていた様子です。おそらく彼の頭の中に脱出のことなど無いのでしょう。石和さんの安否だけを気にしているはずです。今は高橋守の状況などどうでもいい話です。必要なのは彼が持つ情報なのでございます。
「外の様子は分りましたか。」
「はい。駐車場には4人いるそうですが、車を動かす通路は確保されているようです。」
4人・・・。陽動を上手くできれば十分かわすことができる人数です。脱出を試みた他の車が失敗して通路を塞いでいる懸念もありましたが杞憂(きゆう)だったようでございます。ということは、車にさえ辿り着ければ脱出は成功したも同然です。
「李さん、ありがとうございます。必ず一緒に脱出しましょう。」
「はい。山岡さんを待っています。」
ロープ代わりにとカーテンや布団を切って結んだ紐も完成に近づいてきました。明日、10月3日には脱出の行動に移せそうでございます。
「そういえば山岡さん。高橋さんはあなたのことも随分気にしていました。」
彼女の最後の言葉を聞いて私はドキリとしました。彼女は笑いながら
「私は自分を救ってくれる大切な人を売ったりはしませんよ。」
と言い残して電話を切りました。彼女のその言い方だけがなぜか脅迫めいたように感じましたが気のせいでしょう。切羽詰まった状況で私も心の余裕を失い疑り深くなっていたと思います。
 事態が急変したのは、その日、10月2日の午後3時ごろだと思います。日が短くなって午後3時でも薄暗くなっておりました。私は妻の作業を手伝い最後の仕上げに取り掛かっているところでございました。そんな中、突如外から物凄い叫び声を聞いたのでございます。
「グウォー!!!」
という正真正銘の獣の咆哮(ほうこう)に部屋が揺れる思いが致しました。私と妻は驚いて手を置き、外の状況を窺いに窓へと向かいます。眼下はホテルの裏庭でやつらがひしめておりましたが、その中に大きな影が二つ。まるで岩のように見えました。
「熊・・・。」
その岩は確かに微妙に動いておりました。腕、脚、顔と思われる部分も遠目からですが確認できます。こんな大きな熊を私は見たことがございません。動物園で見たヒグマの5倍はありそうです。
「やつらを食っている・・・。」
信じられない光景でございました。その大きな熊はしきりに地面の何かをかじっているのでございます。そこには頭を噛み砕かれ、腕を引きちぎられた人の姿がありました。やつらを食っているのでございます。聞いた話を思い出しました。熊は一端味をしめた獲物ばかりを狙う習慣があるそうなのです。人間の女を襲って食べると次からは女ばかりを襲うそうでございます。今回の場合は、感染者を襲って食べたのだから今後は感染者ばかりを狙う可能性もあります。周囲にはやつらがまったくそんな事を気にせずにうろついておりました。この大きさであれば一晩で全員を食べ尽してしまうことも考えられます。そうであればこれほど強い味方はありえません。しかし、いくら北海道とはいえ、こんな場所に熊が出没するなど聞いたこともございませんでした。ましてこんな大きな熊がこの山に存在するとも思えません。この層雲峡にいったい何が起きているのでしょうか。
(私はこの随分後にある男の掲示板を見て衝撃の真相を知ることになるのですが、この話はまたいずれさせていただきます。)
「グウォー!!!!!」
また咆哮です。今度は反対側から聞こえてきました。確実にこのホテル内からです。
「いったい何匹いるんだ・・・。」
もちろん生きた人間を襲わないとも限りません。やつらを陽動する手段はあってもあの熊に出会っては逃れる術(すべ)は無いでしょう。やつら以上に警戒すべき存在ということになります。
 妻は元来猛獣好きで、動物園でも虎やライオンをこよなく愛し、どうせ死ぬならライオンに食べられて死にたいと日頃から嘯(うそぶ)いておりましたから窓のサッシに頬杖をついてその光景に見とれております。まさに旭山動物園名物の「モグモグタイム」ともいうべき光景です。それにしても人間の声や足音にあんなに反応するやつらがこの大きな咆哮を聞いても何ら興味を示さないのもおかしな話でございました。私は必死に情報と状況を整理しようとするのですがひっきりなしに聞こえてくる熊の咆哮がそれを邪魔するのです。結局私と妻は作業に戻り、それを完成させる以外にできることはありませんでした。
 明けて10月3日早朝。新たに出現した熊の咆哮のお陰で一睡もできずに朝を迎えました。定期時刻を迎えて李さんと連絡を取ると彼女も熊の声に驚いていた様子です。層雲峡に来て1年経つが熊を見るのは初めてだということでございました。その大きさと獰猛さに驚愕ししばらくは動けなかったそうです。熊の話はとりあえず横に置いておき、私は脱出の方法を簡単に彼女に伝えました。まず私たちが外をロープ代わりの布を伝って2階に下りる。そこは無人の従業員部屋なはずなので、その窓を叩き割って室内へ。その後2つ離れた李さんの窓へ紐を投げ、それを彼女が伝ってきて合流。そして再度外から1階の大浴場の脱衣室へ。脱衣室に侵入後はおそらくそこへ避難している人たちの協力を受けながらホテルの正面玄関へ向かい駐車場へ。最大の問題は脱衣室から正面玄関までどう進むのかということですが、これは正直その状況になってみないと分りません。陽動を駆使して進むことになるでしょう。脱出は目前ですから車のキー以外は何を使って何を失っても構いません。2階の従業員部屋に着いた時点で1階の脱衣室とは何とかコミュニケーションをとる手段を考えるつもりでもありました。
 まずは命綱無しで8階から2階まで降りられるかどうかでございます。このような訓練など受けたことはありませんし、ロッククライミングなども映像で見たぐらいです。ぶっつけ本番で命がけの試みに挑戦することになるのです。男の私は腕力で自分の身体を支えることができたとしても運動をこよなく嫌う妻に可能なのでございましょうか。ジェットコースターなどのアトラクションとは違うのです。一歩誤れば落下して命を落とすか、骨折などの重傷を負った後でやつらに生きたまま食われるかどちらかの運命です。妻はおそらく熊に食べられることを望むでしょうが・・・。
 
 決行は午前8時と決まりました。

 私と妻は窓を開き、反対側を室内の柱に括り付け、紐を垂らします。

 用意は整ったのでございます。

 後は勇気を持って進むだけでございました。

 無論、そんな簡単に事が運ぶわけもありませんでしたが・・・。

 この続きはまた次回とさせていただきます。
 それでは一度失礼させていただきます。


N4527BC-62
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Sense62

 ミュウたちのベースキャンプは、まさに地獄絵図と言っても過言ではない。
 中央に立ち上る火柱、その火柱から逃げるプレイヤーたち、逃げるプレイヤーを炎が飲み込みその内で崩れていく人型。
 どうしてこんなことになっているのか、俺もミュウたちも分からず、ただ呆気にとられていた。

「いや……いくらキャンプファイヤーやりたいからってちょっと日が高すぎるんじゃないのかな?」
「冗談言っている場合か! 明らかな異常事態だぞ。……ルカートたちと合流しよう。まずは連絡してくれ」

 ミュウの言葉は、冗談だとはわかる。だが普段の冗談とは違い、完全に顔が引き攣ってた。それだけにミュウにも衝撃的だったのだろう。
 普段、妹の動揺など殆ど見ないために、逆に俺の心が冷えていき、周囲の観察を始める。
 周囲のテントや置きっぱなしの道具類に炎が燃え移り、キャンプ場としての機能は壊滅的だ。不幸中の幸いか、きちんと距離感を持って置かれていたために、燃え盛る今は、俺たニューバランス ブーツ
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ちの行く手を遮ることがないのは安心だ。
 最悪、逃げる時に、これらが炎の迷宮と化してしまう。

「ルカちゃんと連絡取れた! 今、人の誘導しているって!」
「分かった! 俺たちから動いて合流しよう。パーティーでマップを共有しているから場所は分かるよな。トウトビたちはナビゲート頼む」

 二人は、表情硬く頷いてくれた。本当は、彼女たちだけを逃がすことだけを考えれば、全滅は免れるのだが、仲間の危機に駆けつけたいと言う強い意志がひしひしと伝わってきて、それは言えなくなる。。
 俺は、付け焼刃だがないよりマシと考えて、全員にDEFとMINDのエンチャントを施して人の流れを逆行する。

「こうなる予兆とかあったか?」
「……ありません! これほどの魔法か攻撃をするMOBは確認されていませんし! 第一、セーフティーエリアには通常のMOBは侵入できません!」

 普段、落ち着いた口調のトウトビでさえ動揺している。

「僕は、ユニークアイテムが原因だと思うな。誰かがチート武器持って暴れているとか」
「ヒノちゃん、ネット小説の読みすぎ! リアルのオンラインゲームでチートなんてあったら、プレイヤー離れしちゃうからあり得ない!」

 リアルチートのお前が言うな、と他三人の心の声が一致する瞬間。だが次の時には、そんな余裕すらなくなる。

「炎襲来! 防御!」

 俺は、声を張り上げ、固まるように指示。インベントリから取り出したクレイシールドのマジックジェムを地面に叩き付ける。

「クレイシールド!」

 競り上がる土壁と後からぶつかる炎。散らばる炎が土壁を這い、俺たちの顔を熱気にさらす。
 壁の端からわずかに頭を出して、炎の向こう側を見るが、未だに炎を振り撒き、落ち着いていない。

「……これじゃあ、進めないね」

 目的の距離まではそれほど離れていないが、この炎を掻い潜り進むのは難しい。

「お姉ちゃん、ルカちゃんたちがこっちに来れないって。今、取り残されているプレイヤーを守るために防御に徹している。って!」
「いよいよ、救出が必要になってきたね。原因は分からないし……僕らだけでできるかな?

 三人が不安そうにしている。防御に徹するといってもこの波状攻撃のような炎をいつまでも耐えられるとは思えない。そして、耐えられなかった先にある最悪の事態を想定している。
 くそっ、と悪態を付きそうになる中、右手に触れるものがある。

「……リゥイ……すまん、お前も不安にさせたな」

 右手にすり寄るリゥイ。じっと、見詰めてくる。

「炎も少し弱まってきたな。もう少ししたら行くか」
「……ユンさん、炎の方から誰か来ますよ」

 逃げるのが遅れたプレイヤーだろう。簡素なベストにちょび髭蓄えたおっちゃん。頭にちょこんと乗る帽子が愛嬌を誘う。
 俺たちは、こっちへ来るように手招きして、避難を誘導する。

「ひっ、ひぃ、ひぃ……助かった……ゲームでもここまで走るのは久しぶりだ」

 緊張か、それとも全力疾走が原因なのか、息を切らして、土壁の裏側に逃げ込んでくるおっちゃん。

「大丈夫か、おっちゃん」
「ああ、君たちも逃げ遅れたのかい? あそこは、近づけない。止めたほうがいい」
「ルカちゃんは! ルカちゃんたちはいる!」

 息を大分整い始めたおじさんに、ミュウは凄い剣幕で迫る。

「……ミュウ、それだと伝わらない。すみませんが、私たちの仲間が避難誘導をしているはずなんです。それで、中心地近くで取り残されているようなのですが、ご存じないでしょうか?」

 トウトビの要点を得た丁寧な質問に、おっちゃんは、思案気な表情をして答える。

「分からない。私は、発生直後にあの側に居て逃げ遅れたんだ」
「そっか……でも、まだフレンドが繋がってるから無事だよね。きっと」

 絞り出したような笑みを浮かべるヒノ。だが、楽観視できない。

「おっちゃん、ことの真相ってわかるか? 発生直後を見たなら」
「ああ、それと私は、おっちゃんではなくトトルだ。原因は、幼獣だよ」

 俺たち全員が俺の隣に居るリゥイを見る。
 トトルさんも、リゥイを見て、幼獣を持っているのか、凄いね。と言ってくれる。

「なんで幼獣が原因なんだ?」
「全身金鎧や悪趣味な服装のパーティーが一匹の幼獣を連れてきた。いや、拉致してきたんだ」

 拉致とは、穏やかじゃないな。つまり、強引に連れてきた。ということか。

「とてもうるさく騒ぐんで迷惑だな。と思いながらも、彼らは初日から人に突っかかったりしていたから遠巻きに見ていたんだ。それで、ぴたりと静かになった途端に、その幼獣から炎が噴き上がり始めたんだよ」
「……原因は? なんでそうなったの?」
「さぁ? 遠巻きだったから分からないけど、何か光るものを持っていたよ。腕輪見たいなものだったと思う」

 先ほどのトウトビとヒノの予想は微妙にニアピンのようだ。
 幼獣のような特殊MOBは、このセーフティーエリアであるベースキャンプに侵入できた。
 そして元凶は、腕輪型のアクセサリーの可能性が高い。と言うことだ。

「全く、その馬鹿どもは、こんな問題起こしやがって! 残っていたらとっちめてやる!」
「はははっ……無理だと思うよ。真っ先に炎に喰われたのが彼らだからね」

 乾いた笑みを浮かべるトトルさん。話を聞いていたら炎が弱まり始めた。

「よし、俺たちは、また奥に向かう」
「私は逃げるよ。まだまだこのイベントを楽しみたいからね」
「賢明だ」

 俺は、大仰に肩を竦めて、その場で分かれる。炎も弱まっているこの瞬間、駆け出し、事態の中心地へと向かう。
 中心に進めば進むほど、顔を焙る熱気で皮膚がひりひりする。
 中心地へは、それほどの距離は無い筈なのだが、熱風と時折襲う炎弾で行く手を遮られ、視界は蜃気楼が立ち込め、【鷹の目】を持ってしても、奥まで見通せない。
 こんな所で欠点を見つけるなんてな。と苦笑した瞬間、視界の端に何かが反応した。

「ルカちゃん!」
「無事みたいだね! 僕らも行こう!」

 近づいて確認したルカートたちは、その攻撃を一身に受けて耐えていた。
 火柱の中に存在する小さな影は、炎の中からでもはっきりとわかる視線を彼女たちに向け、強烈な火炎放射や炎を打ち出す。それらを魔法使いであるコハクやリレイ、そして保護されているプレイヤーの内、魔法使い二人が代わる代わる防御魔法を行使して耐える。
 だが、俺たちが今まで避けていた攻撃とは密度が違う。二人掛かりでやっと抑えることができる。という感じだ。

「あかん! MP切れるで!」
「そんなことを言われましても、MPポーションありませんよ……あっ」

 今抑えていたコハクとリレイは、そんなを行っている間にもリレイの方の防御魔法が消滅した。
 残されたコハクの防御魔法に負担が一気に掛かり、ガラスのように罅割れが始まり、崩壊が秒読みになる。

「間に合えよ!――クレイシールド」

 インベントリの中から片手一杯に取り出したクレイシールドを幼獣とルカートたちの間に投げる。
 途中で出現した四枚の土壁に炎がぶつかり、その後、コハクの防御魔法がMP切れで消滅した。

「何があったんですか?」
「助けにきたよ! ルカちゃん、みんな」

 ルカート、コハク、リレイの三人に、誘導しているだろうパーティーが五人。俺たち合わせて計十二人がここで防御を始める。
 魔法が使える奴は、MP切れや寸前で自然回復では間に合いそうにないので、MPポーションを無言で振りかける。

「ありがとうございます、ユンさん」
「礼は後で良い。それより、すぐに逃げられるか?」

 ルカートに最低限の言葉で確認を取るが、困惑顔でどうにもよろしくない。
 その間にも、断続的に攻撃の加えられる土壁がいつまで保つかが分からない。

「無理なのか?」
「ええ、私たちがターゲットにされていますので、背中を見せたらすぐに狙われます。逃げるのでしたら、誰かが囮……いえ、言葉を濁してもいけませんね。誰かが時間稼ぎして犠牲になってもらうしかありません」

 その言葉に、思った感想は、厄介事に首突っ込んだな。ということだ、今晩の晩飯作らずにリタイアなんて許されないだろう。いや、絶対に死ねない。

「もう一つの方法は、あの幼獣を倒すしかありません」

 まあ、妥当だな。成体化していないMOBだ。総合的なステータスは、低いだろうし、この場に居る十二人でうまく立ち回れば勝算はあるだろう。

「全員、幼獣を討伐する方向で異存は無いか?」

 その言葉に、みな静かに頷く。よし、じゃあ、作戦を考えないとな。と思った矢先、俺の後ろから衝撃を受ける。
 よろめきながら振り返ると、リゥイが頭突きをしてくる。それも何度も、何度も。

「おい、今は遊んでいるときじゃない。分かるだろ」

 それでも何度も何度も続けるために、怪訝に思い、しゃがんで目線を合わせる。

「どうした」
「……」

 言葉が無くては全ては伝わらない。だが、正面から見つめる瞳に籠る感情。それは――懇願だ。
 出会って間もないパートナーが、このような表情をする理由を考える。

 リゥイが懇願する理由。この浮遊大陸の基本設定、そして、石碑の一文。
『――獣の楽園。魔獣が、幻獣が、互いに認め、互いに守り合う場所――』
 つまり、リゥイは、目の前の同胞を見殺しにしたくない、助けたいと言うことなのだろう。

 全く、憶測でしかない。だが、そのように思い込んでしまったら、何としてもその願いを叶えてやりたいと思ってしまう。
 それに自分自身が更に困難に立ち向かうことになっても、だ。パートナーの願いを聞いてやるのが、男の度量ってもんだろ。

「悪い、時間を取らせて」
「いえ、どうしたんですか?」

 ルカートが心配そうに聞いてきたので、俺は努めて明るく答える。

「悪い! 俺は討伐反対だわ!」

 全員のぎょっとした顔と共に、俺は、リゥイと共に土壁の裏から飛び出す。

「さぁ、俺たちでやれることやるか? 相棒!」

 一人と一頭がでっかい炎に立ち向かう。俺は別にトッププレイヤーじゃないが、勝算は、あるつもりだ。

************************************************
ゴールデンウィーク中、体調を崩し、更新が途絶えてしまったこと誠に申し訳ありません。
まだ、本調子ではなく、これを書き上げるのにも時間が掛かりました。少しの養生の後に必ず復活します。
どうか暖かな目で見守ってください。

N5011BC-24
rfqwrzds
第4話 壁剣の騎士(前編)




 1

「それじゃ、だんな」
「ありがとうごぜえやした!」
「大将のご恩は忘れやせんぜ」

 全身で感謝を表し、名残を惜しむ三人の男に、バルドは、

  うむ、お前たちも元気でな。
  辛抱するのじゃぞ。
  くれぐれも短気は起こさんようにな。
  まじめにやっておれば、きっとよいことがあるからのう。

 と、声を掛けた。
 三人は、何度も何度も振り返りながら、山道を下って行った。
 やがてバルドは、荷物をかつぐと、反対側へと坂道を下った。
 しばらく進むと、昨日襲われた場所に出た。

  こんな見晴らしのよい場所で襲い掛かるなど、何とも間抜けなことじゃった。
  しかも、わしのほうが坂の上なのじゃからのう。

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間と下にいる人間が戦えば、上側が有利なのはいうまでもない。
 その程度の常識も働かないほど、三人は愚かだった。

 三人に会ったのは、昨日のことだ。
 前に泊まった村で、ポドモス大領主領に入る直前の山には最近山賊が出る、とは聞いていた。
 大勢で行けば山賊は出ないらしい。
 山賊退治も悪くないのう、と思っていた。
 本当に出た。
 バルドの前に三人で立ちふさがり、

「おい、じじい。
 荷物を置いていけ。
 命までは取らねえ」

「言うことを聞かねえと、ひでえことになるぜ」

「逃げても無駄だぜ。
 俺たちゃあ、足が速ええんだ」

 恐ろしく汚い格好をした三人が、目をぎょろつかせ、銅鑼声で脅してきた。
 髪もひげも伸びきって、人間というより野獣だ。
 粗末な武器を持っている。

 気の弱い旅人なら震え上がってしまうような恐ろしさだが、バルドは、まったく脅威を感じなかった。

 戦いになった。
 あっという間に決着が付いた。
 バルドにたたき伏せられた三人は、今度は打って変わって情けない顔つきになった。
 そのときは、三人の首を取るつもりだった。
 山賊などを野放しにしておいて、よいことなど何もない。

 だが、三人がかばい合うのを見て、気が変わった。
 お前たちはどこの生まれで、なぜ山賊などしているのか、と訊いた。
 結局、その夜は、三人がアジトにしていた穴蔵で、酒を酌み交わしながら、三人の身の上話を聞いた。
 三人は、酒を口にできるのは久しぶりだと感激した。

 三人は、トゥオリム領という所の木こりだった。
 トゥオリム領では、税が高く、取り立ては厳しく、貧しいものはますます貧しくなっているという。
 税が払えない家は、子どもや女が連れ去られて売り飛ばされてしまう。
 取り立て役人に抵抗すると、むごい目に合わされる。

 しかし、エンバという義侠心のある男がいて、無法な取り立てから村人を守った。
 エンバを慕う男たちが集まり、一つの勢力になり、働き手のない家を助けたり、食べ物を融通し合ったりした。
 この三人も、エンバの腕っ節と男気に惚れて、その舎弟となった。

 ところが、あるとき、領主のもとに、ひどく腕の立つ護衛が二人雇われた。
 その護衛にエンバは切り殺され、手下たちも次々殺された。
 三人は何年も逃げ隠れしたあと、ようやくここまで逃げてきて、旅人から食料や品物を奪い取って糊口をしのいでいたのだという。

 この話がどこまで本当かは分からないが、三人の目は濁りきってはいなかった。
 殺しだけはしていないという言葉は本当だろうと思えた。

  これなら、まだやり直せるかもしれんのう。

 そう思って一晩酒を酌み交わしてみた。
 酒は人の本性を引き出す。
 粗野な生活をしていれば、なおさらである。
 話してみて、三人とも根は純情で、憎めないものがあると知った。

 そこで、少し離れた村の長に紹介の文をしたためた。
 この三人はゆえあって盗賊に身を落としたが、見所がなくもないので、働かせてやってほしい、不始末をするようならどんな罰を与えてもよい、と書いたのだ。
 数日前、その村長と娘が魔獣に襲われたのを、バルドが助けた。
 ひどく恩を感じていたようだから、頼みは聞いてもらえるだろう。

 三人にそれを話したら、泣いて喜んだ。
 人を脅して食べ物を奪い、いつか討伐されるのを待つような生活から足を洗えるのだ。
 うれしいに違いない。
 朝になり、髪を切り、ひげを剃ったら、少しは見られるようになった。
 バルドは三人を見送り、旅路に戻った。




2

「見つけたぞ、山賊。
 仲間はどこだっ」

 バルドの前に、全身を金属鎧に包み、巨大な剣を持った騎士が立ちはだかった。
 後ろには従者が控えている。
 わしは山賊ではない、と言うバルドに、

「ええい、しらじらしい。
 近頃山賊が出るというこの峠を、一人でうろつく者などおらんわっ。
 山賊本人以外にはな。
 腰の刀は何じゃ。
 人を襲うためであろうが」

 このようななりをしてはおるが、わしは騎士じゃ、とバルドは言った。

「笑わせる!
 馬も持たぬ騎士があるかっ。
 山賊の分際で名誉ある騎士を名乗るなど、ますますもって不届き千万。
 しかも、その毛皮は、ウラルタ村の老人から奪ったものであろう。
 動かぬ証拠じゃ!」

 確かにバルドの荷物には毛皮がくくりつけてある。
 だがこれは自分で倒した川熊の魔獣の毛皮である。
 これは魔獣の毛皮じゃが、おぬしが探しているのもそうか、とバルドは聞いた。

「魔獣の毛皮だと!
 そのような貴重な品を盗むとは、ますます許せんっ」

 全身鎧の騎士は、まったく聞く耳を持たない。
 しかたなくバルドは、名を名乗った。
 だが、それは相手の怒りをさらにあおることになった。

「きっ、きっ、きさまっ。
 こ、こともあろうに、バルド・ローエン殿の名を騙るとは!
 もはや許せんっ。
 たたきつぶしてくれる!」

 と叫ぶなり間合いを詰めてきた。
 大男である。
 バルドより心持ち背は低いが、横幅と厚みは|勝《まさ》っている。
 その武器を見て、大男が誰であるかバルドは知った。

 ゴドン・ザルコス。

 ザルコス家当主にして、メイジア領主。
 メイジア領は、確かにポドモス大領主領の中にあるが、もう少し北だと聞いていた。
 ふもとの村が守護契約地なのかもしれない。

 ゴドン・ザルコスといえば、〈壁剣〉の使い手として有名だ。
 鉄壁の防御技術を持つ剣士なのだろう、と思っていた。
 そうではなかった。
 壁のように剣を使うのではない。
 壁のような剣を使うのだ。

 とにかく桁外れに幅が広い剣だ。
 その剣を顔の前に構えている。
 刃筋を真横に向けている。
 顔がまったく見えない。
 それほど横幅が広いのだ。

 あまりに常識はずれな剣とその構えに、バルドはあぜんとした。
 と、壁剣が振り下ろされた。
 振り上げるでもなく、横に構えたまま無造作に。
 刃で切るのではなく、広い剣腹でたたきつぶそうというのだ。
 その恐るべき質量をまともに受けるわけにはいかない。
 バルドは真後ろに一歩下がった。

 ぶおんっ。

 巨鳥の羽ばたきを思わせる、すさまじい風圧がバルドを襲った。
 巨大質量で振り下ろす壁剣は、すでに破壊兵器と呼べる。
 振り下ろされた速度に劣らない速度で、壁剣はすぐに元の位置に引き戻された。

  なんたる|膂力《りよりよく》!

 |腕力《かいなぢから》には自信のあったバルドだが、ゴドン・ザルコスの腕力は、全盛期のバルドより上だ。
 はるかに上だ。
 この剣一本に、どれほどの鉄が使われているのだろう。
 それを軽々扱うこの男は、並外れた大力の持ち主だ。
 振り下ろすのはともかく、それを空中でぴたりと止め素早く引き上げるには、どれほどの筋力が要ることか。
 つかの間の驚きから覚めたバルドは、相手の周りを大きく回りながら考えた。

  さてさて。
  どうしたものか。
  向かってくるのじゃから、たたきのめしても構わんかのう。
  というより、一度たたき伏せねば話も聞いてもらえそうにないわい。
  じゃが、どうやってたたき伏せるか。
  金属の全身鎧をまとうておる。
  相当良い品とみた。
  この鉈剣では、どうにもなるまいがのう。

 もともとバルドは、鎧の上からたたき付けて相手を気絶させるような大剣が得手だ。
 だが、今はそんな武器はない。
 あっても振り回せば肩と腰が痛む。
 と考えていたとき、二撃目が降ってきた。
 視界を覆い尽くして壁剣がうなる。
 すごい迫力だ。
 なまなかな武人では、この凶器にまともに向き合えないだろう。
 バルドは、今度も後ろに避けた。
 今度も壁剣は空中で止まり、ただちに引き戻された。
 相手が一歩距離を詰める。
 バルドは、足を横に運びながら、考えをまとめた。

  よし。
  次の一撃がきたら、後ろではなく横に避ける。
  そして、剣を握っている右手に切りつける。
  あの重い剣を握っていては、衝撃の逃げ場がなかろう。

 相手が一歩踏み込み、壁剣を振り下ろしてきた。
 バルドは横にかわして、相手の懐に飛び込もうとした。
 壁剣は剣腹でバルドの立っていた地点をたたくと、そのまま恐ろしい速度に右に振られた。
 巨大な刃先がバルドの右脇腹に迫る。
 バルドは、あわてて後ろに跳びすさった。
 もう少し深く踏み込んでいたら、致命的な打撃を受けていただろう。

 態勢を立て直しながら、バルドは冷や汗をかいていた。
 これほどの速度でこれほどに重い剣を遅滞なく真横にも振れるとは、想像を超えた腕力だ。

  これは存外やっかいな相手じゃのう。
  攻め方が見つからんわい。
  正面から飛び込んで、剣を握る指をたたくか。
  いや。
  それでは振り下ろしてくる壁剣をかわしきれん。
  足をねらっても同じじゃろうのう。
  あんな重い物をあんなに速く振り回されると、始末におえんわい。
  それにしても、相手の顔が見えんと、どうもやりにくいのう。

 ゴドン・ザルコスの顔は、完全に壁剣の陰に隠れている。
 ということは、ゴドン・ザルコスからもバルドが見えないはずだ。
 なのに、相手の動作には迷いがない。
 どうやってこちらの動きを見定めているのだろうか、とバルドはいぶかしんだ。
 またも相手が踏み込んで壁剣を振り下ろしてきたので、またも後ろに飛んで逃げた。

「逃げてばかりでは勝てんぞっ。
 そのうち疲れてかわしそこねることになる。
 ぺちゃんこにつぶされるのが嫌なら、武器を捨てて降参せい!」

 どこで死んでも構わんが、こんな馬鹿らしい武器につぶされて死ぬのだけはごめんじゃ、とバルドは思った。
 いっそ降参してちゃんと話をすれば誤解は解けるのだろうが、降参するのは、それはそれでいやだった。
 バルドは、手に持った鉈剣を見た。
 もはや神秘の力は使い果たしたのかと思っていたが、この前の魔獣との戦いでは、またもや圧倒的な切れ味を見せてくれた。
 もしもこの剣が今でも魔剣としての力を持っているのなら、自分などの手元にあってはいけない、とバルドは考えていた。
 魔獣を屠れる武器は、テルシア家が持つべきだ。
 この剣が力を失っていないなら、テルシア家に届けなくてはならない。

 そうとして、この剣もどきが今も魔剣なのか、どうなのか。
 どうにかして確かめたい、と思っていた。
 そう思いながら、山道を歩いてきたのだ。

 今までに二度、この鉈剣は不思議な力を現した。
 だが、縞狸との戦いでは、力を現さなかった。
 山賊との戦いでもそうだった。
 なぜか。
 この剣にまだ力があるとして、それはどういうときに出てきて、どういうときに出てこないのか。

 命の危機がある強力な敵との戦いでだけ、この剣は真の力を現すのではないか、とバルドは思いついた。
 ならば、今こそ確かめる好機である。
 よし、とバルドは心を決め、魔剣に呼び掛けた。

  剣よ。
  魔剣よ。
  古代の叡智により鍛えられしまことの魔剣よ。
  今わしは強敵に挑む。
  真の姿を現し、敵を斬り裂け!

 そして、相手の懐に飛び込むと、渾身の力を込め、横なぎに壁剣に切り付けた。
 だが、鉈剣は鉈剣のままだった。
 何の不可思議な働きも生じなかった。
 鋼が鋼と打ち合わされる大きな音が響いた。
 相手はそのまま壁剣を振り下ろしてきた。

 バルドは、後ろに飛んだ。
 無茶な攻撃をしたために、右肘と右肩がしびれて感覚がない。
 手首も痛めた。
 たぶん、もう剣を振り回せない。

 だが、バルドは敗北を免れた。
 大地に打ち付けられた壁剣は、ぱきりと真横に折れてしまったのだ。
 ちょうどバルドが切り付けた箇所で。
 おそらく、今日までたたき付けられ続けて、ひびが入っていたのだろう。

「うおおおおおおおっ。
 剣が。
 剣がっ。
 俺の愛剣があああああああっ」

 わめくゴドン・ザルコスを冷めた目で見ながら、バルドは、

  何も起きなんだのう。
  やはりもう、魔剣としての力は失われておるのかのう。

 と考えていた。

 
 





 3

「いや、まったくもって、申し訳ござらん。
 よりによって、バルド・ローエン殿に、あのような無礼を働くとは。
 このゴドン、一生の不覚でござった。
 何ともお恥ずかしい。
 おしかりくだされ」

 大男が身を縮めてわび続ける姿に愛嬌を感じて、バルドは笑った。

「本当にもう、兄上は。
 いつも申し上げているでしょう。
 まずは相手の言い分を聞きなさいって」

 と隣で怒っているのは、ゴドン・ザルコスの妹ユーリカだ。

「ユーリカ。
 ローエン卿は許すと言ってくださったのだから、そのことはもうよいではないか。
 |義兄上《あにうえ》も、そう謝ってばかりでは、ローエン卿も居心地悪くお感じですよ。
 おお、黒海老が焼き上がってきましたよ。
 ワインをお注ぎしましょう、ローエン卿。
 この海老料理は、当家の自慢なのですよ」

 と場を和ませようとしているのは、ユーリカの夫のカイネンだ。
 見所があるということで、ザルコス家に入夫した。
 領内の産業振興と財務管理に腕を振るっているという。

 壁剣が折れて呆然とするザルコスに、バルドは一通の手紙を見せた。
 それは、リンツ伯が書いた紹介状である。
 リンツ伯はゴドンの伯父にあたる。
 以前からゴドンが〈人民の騎士〉バルド・ローエンを敬愛していたのを知っていたから、北に行くならぜひメイジア領を訪ねてほしい、とバルドに頼んだ。
 そして、ゴドンには、ローエン卿は命の恩人であるから手厚くもてなしてほしい、と手紙を書いたのである。

 この紹介状を見て、目の前の老人が間違いなくバルド・ローエンだと知ったゴドンは、平謝りに謝り、バルドを自分の城に招いたのである。
 二人を迎えたユーリカは、事の次第を聞いて、大いに兄をしかり、バルドに謝った。
 そのうえで、わが兄は、以前よりあなた様をお慕いし、ぜひ一度お会いしたいと念願しておりました、なにとぞしばらくご逗留くださいませ、と頼んだ。
 バルドは快くそれを受けた。

 カイネンは、さかんにバルドに話しかけるゴドンとユーリカをさえぎり、湯浴みをさせてくれた。
 湯殿でくつろいでいると、薬師が入ってきて、長く伸びた髪とひげを短く切り詰めてくれた。
 湯上がりには侍女が香油を塗ってくれ、清潔な着替えが用意してあった。

  こんなにさっぱりしたよい気分は、久しぶりじゃのう。

 バルドはカイネンの心配りに感心した。






 4

 黒海老というのは、大型の海老だ。
 領内の塩湖で獲れるという。
 ある大きさ以上になると、赤い甲殻が黒みを帯びてくる。
 黒みを帯びた海老は、濃厚で深みのある味を持つ。
 茹でてよし、焼いてよし、スープにしてよしの、無敵の海老である。

 バルドは、目の前の皿を見て驚いた。
 こんなに大きな海老は見たことがない。
 殻はいかにも立派で、まるで偉大な騎士の鎧のようだ。
 その見事な海老をまっぷたつに切り分け、殻付きのまま焼き上げてあるのだ。

 一見、ただそのまま焼いているように見えるが、たぶんそうではない。
 まず、殻と身のあいだに、黄色い油がじゅうじゅうと泡だっている。
 そして、フォークを差し入れてみると、いとも簡単に身がはがれる。
 無造作な丸焼きに見えて、そこには調理人の仕事がある。
 一切れを切り取って口に運ぶ。

  ううむ。
  何というよい匂いじゃ。
  香草と、この油のおかげかの。

 舌に乗せたとたん、鮮烈なうまみを感じた。
 そのまま噛みしめてみると、海老とは思えないほどのしっかりした歯ごたえである。
 だが、固すぎない。
 一度、二度、三度と噛みしめる。
 そのたびに、味が違う。
 さらに何度か噛みしめたあと、飲み込んだ。
 実にしっかりとした、そしてたっぷりとした身だ。
 大型の海老独特のまったりした食感が何ともぜいたくだ。
 焼き加減も絶妙で、外側はほどよい焦げ目が付いているのに、中は真っ白で宝石のように美しい。

 驚いたのは、塩加減だ。
 最初に舌に乗せたとき、しっかりとした塩味を感じた。
 だが、一切れをまるまる食べてみると、身の奥の奥まで入り込んでいる塩はとても薄味で、それが海老独特のうまみを引き出している。
 少しも塩辛くない。
 不思議だ、とバルドは思ったので、それを聞いてみた。

「あら。
 バルド様は、お料理に詳しくていらっしゃるのですね。
 うふふ。
 わが家では、焼き物には二度塩を振るのです。
 うまみ塩と、仕上げ塩、と申しておりますわ。
 塩と感じる塩と、塩と感じない塩、と申してもよろしいでしょうか。
 この黒海老の鬼鎧焼きの場合、新鮮な海老を真っ二つに切ったあと、まず薄くまんべんなく塩を振るのです。
 次に、上からわずかに果物の汁を掛けて、塩味を染みこませます。
 時間を少しおいて、同じことを繰り返し、半身の海老全体を香草で巻いて、しっかりと塩をなじませます。
 頃合いをみて、海老を火にかけます。
 火が通っていくにしたがい、塩は海老からうまみの汁を引き出します。
 そこでパーリム油を塗ります。
 海老から出た汁と塩と油は混ざり合って、最高のソースに生まれ変わり、そしてもう一度身に染みこんで深い味わいを海老に与えるのです。
 そして、海老が焼き上がる寸前に、火勢の強い場所に海老を移して、仕上げの塩を振り掛けるのですわ。
 こんなふうに」

 ユーリカは、自分の頭より高く右手を上げ、指をこすり合わせて塩を振るしぐさをした。

「仕上げ塩は、高く高く振りかけねばなりません。
 そうすることによって、塩の量は少なめで、しっかりとした塩味がするのです。
 先ほども申しましたように、身に染みこんでうまみを引き出すための塩と、焼き上がりに掛けて味を調えるための塩は、まったく別物です。
 下ごしらえで塩を使ったから仕上げ塩は要らない、ということにはならないのです。
 もちろん、全体でどのくらいの塩の量になるかをあらかじめ厳密に計算して、うまみ塩の量を調整しなくてはなりません。
 このように大きな黒海老は、うまみを出すために必要な塩の量も多く、しかも、うまみを引き出すのに必要な焼き時間と、身の焼き上がりに必要な焼き時間を一致させるには、熟練を要します。
 火からおろしたとき、手練の早業で、身と殻の間にナイフをいれます。
 身ばなれをよくして食べやすくするためと、余分な油を外側に回して、味がくどくならないように。
 試行錯誤を重ねて、この味は生み出されているのですわ」

 料理の手順を聞いていちいちうなずきながら、バルドは次々に海老を切り分けて口に運んだ。
 殻の上に残るソースに身を浸せば、また一段と濃い味も楽しめる。
 合間合間には、ワインを飲みながら。
 バルドは、白ワインは、あまり好きではない。
 だが、地元で作られたというこのワインは、ひと味違う。
 ワインそのものの味も、すっきりして嫌みがないのだが、それ以上に、きりりと冷やしてあるのがよい。
 井戸で冷やしたのだというが、|熱々《あつあつ》の海老をほおばりながら喉に流し込む冷たい白ワインは、実に至福だ。

 ユーリカの料理説明も、まったく嫌みに感じない。
 むしろ、海老を味わう楽しみを増加させてくれる。
 堂々たる女主人ぶりというべきである。
 この妹御は、なかなかやるわい、とバルドは思った。
 バルドがすっかりくつろいでいるのを見て、ゴドンも大いに喜び、話ははずんだ。





 
************************************************
7月19日「壁剣の騎士(後編)」に続く

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で言うのだった。
「DVD観る?」
「それですね」
「うん。何がいいかな」
「では。子供みたいですが」
 少し気恥ずかしそうに笑ってから言う真人だった。
「ドラえもんにしますか」
「ああ、ドラえもんの映画ね」
「それどうですか?」
「いいね。やっぱりドラえもんっていいよね」
「そうですよね。安定した面白さといいますか」
「感動できるから」
 ドラえもんの映画のいいところだった。誰が観ても笑顔になれて感動できる、そのよさがこのアニメにある。だから二人も今はそれをだというのだ。
 だからだ。希望はそれを観ようと提案したのである。
「どうかな。それじゃあ」
「はい、ではですね」
「確か友井君の家はドラえもんの映画は」
「全部持ってますよ」
「そうだったね。全部だったね」
「それで何を御覧になられますか?」
「宇宙開拓史バーバリー シャツ メンズ
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がいいかな」
 少し考えてからだ。希望は述べた。
「それどうかな」
「宇宙開拓史ですか」
「うん。それでどうかな」
「いいですね。それとですね」
「宇宙開拓史の後で、ですね」
「宇宙小戦争はとうでしょうか」
 真人は穏やかな微笑みで希望に話す。第八話 友情もその三

「じゃあ一度機会があれば」
「お酒はいいものです」
 真人の今の言葉は優しく、それでいてだった。
「心を癒してそして」
「そしてだよね」
「心を笑顔にもしてくれます」
「だよね。だからお酒は」
「百薬の長です」
 それだとだ。笑顔で言うのだった。
「まさにそれですね」
「そうだね。飲み過ぎ

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「わっ! これまた随分とあるもんだ???。」
今度は、一転、その数の多さに苦笑する。

「代書業?代書屋」という小見出しのところに、ざっと見ただけで100件を超える電話番号がびっしりと並んでいた。もちろん、店名?屋号に加え住所(所在地)もである。
しかもだ、「50音別」と言われるだけのことはあって、ご丁寧にも店名?屋号が「あいうえお」順に並んでいるのだ。
それ以外の規則性はない。
しかも、源次郎が求めていた「小樽市内」に限定したものでもない。その周辺のエリアもが対象とされていたからだ。
つまりは、場所から当該の店などを探し出すには非常に使い勝手の悪い代物だったと言える。

「あるにはあったけれど???。」
源次郎は新たに煙草を咥える。
溢れんばかりの情報から、どのようにして訪問する店を選び出すのかを考えねばならなかったからだ。

もちろん、住所(所在地)には小樽市の表示がなされている。だから、そう書かれているものセリーヌ バッグ 新作
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だけを選び出せば良いのだが、それでもその数だけでもこれまた相当にありそうだ。
しかも、それに続く区別にしても、どこがここから近いのかさえ殆ど分からないのだ。

「まずは、小樽市内の地図が要るなぁ~。」
源次郎は大きな溜息をつく。


(つづく)



第2話 夢は屯(たむろ)する (その1256)

「あっ、はい???。どうぞ。」
シェフは愛想良くそう答えてくる。


電話帳が置いてあった場所のすぐ横にピンク色の公衆電話があった。
いわゆる「ピンク電話」と呼ばれるものである。

正式には「特殊簡易公衆電話」と言われるもので、飲食店などの店内に店舗の運営者などが設置する公衆電話サー

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烁肖袱毪猡韦坤???。」
美由紀がそう解説してくる。

「ええっ! ??????。」
源次郎はそれだけしか口に出来なかった。
それでも、美由紀が伝えようとしてきた意味は理解した。

つまりは、セックスの後に残された匂いを完全に取り去っておけ。
そう言われているのだと気が付く。

「わ、分かりました。ちゃんとしておきます???。」
源次郎は、素直にそう言った。
まるで母親にシャワーの浴び方を教えられた子供のようにだ。

それに対しては、美グッチ バッグ 新作
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由紀は何も言ってこなかった。
ただ、張り付いていた風呂場のドアから遠ざかっていく足音だけが聞こえてくる。


(そ、それにしても???。)
源次郎は、正直、舌を巻いた。

仮にだ、美由紀が言うほどに女性がそうした匂いに敏感だとしてもだ、この場面で女の美由紀から男である源次郎に対して言うべきことなのだろうかと???。
源次郎は、それを疑問に思った。


(つづく)



第2話 夢は屯(たむろ)する (その1019)

(ど、どうして???、今朝に限って、そんなことを言うんだろう?)
源次郎は首を傾げる。

別に、美由紀とのセックスが初めてだったわけではない。
場所は違うが、既に何度かしている。
それでも、美由紀が今のような言い方をして来たのは初めてだった。

誰かに、そう言われたのだろうか?
そして、そのことで冷かされたりしたのだろうか?
いやいや、そんなことは無いだろう。
今、周囲にいる人間で、美由紀にそんなことをズバリと言える者は殆どいない筈。
強いて言えば、あの老獪な支配人ぐらいだ。
その支配人だって、美由紀のご機嫌を損ねるようなことは、きっと言わないだろう。

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それをすぐに洗い流す必要があります。

鍋や調理鍋の表面に直接塩を入れないようにしてください。 またレースの冒険側を好む方にはいつも一緒に行く。

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第十八話 力天その十七

「そうかと思えば何十年も闘う人もいるし」
「それぞれかな、やっぱり」
「だよね」
 話はそれぞれ行われるがどうしてもわかることは少ない。妖怪達にしても全てを知っているわけではない。そしてそれは博士も同じであった。
「わしも文献を全て解読しておるわけではないしな」
「だからわからないこともあるのだな」
「はっきり言えばわからないことの方が多い」
 これが返答だった。
「残念じゃがな。それにまだまだ手に入れていない文献もある」
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「それもか」
「そうなのじゃよ。存在も知らない文献や資料もまたあるしのう」
 結局のところわかっているところは非常に少ない。博士も妖怪達もわかっていることは非常に少なくそれが結果として牧村の思考も制限してしまっていた。
「まあおいおい集めていって解読していくがな」
「そうか。では頼むぞ」
「うむ。そちらは任せておいてくれ」
「僕達も思い出していくから」
「期待していてね」
 妖怪達も言う。しかし牧村は妖怪達にはこう返すのだった。
「御前等は特に期待してはいない」
「あれっ、そうなの」
「期待していないの」
「期待はしていないが信頼はしているし嫌いでもない」
 だがここで牧村の言葉はこうなった。
「御前達はな」
「信頼していて嫌いじゃないってことは」
「つまり僕達牧村さんに好かれてるんだ」
「そう思いたければそう思っていればいい」
 はっきり答えることはあえてしないのであった。
「そういうようにな」
「じゃあそう思っておくけれどさ」
「それじゃあね」
 そして妖怪達もそれに乗るのであった。
「さてと、お菓子も食べたし」
「後は」
 ここで彼等も牧村も丁度ザッハトルテを食べ終えたのだった。後には心地よい満足感が残る。
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「何処かに行こうかな。それとも」
「どうするつもりだ?」
「いや、遊びに行くかそれとも」
「昼寝でもしようかなって」
 こう牧村に答える妖怪達だった。
「考えてるんだけれど」
「どっちがいいかな」
「好きにすればいい」
 牧村はそんな彼等に対して告げた。
「御前等の好きなようにな」
「好きにすればいいんだ」
「何処かに行っても昼寝をしても」
「そうだ。好きにできる時に好きにすればいい」
「そうだよな。それが妖怪なんだし」
「それじゃあ」
 また牧村の言葉を聞いて述べるのだった。
「そうしようか」
「それじゃあこれでも飲んで」
 話しながらあるものを出してきた。見ればそれは一升瓶だった。それと塩辛や枝豆を出してきてそのうえでまた飲み食いをはじめたのである。
「ゆっくりと寝ようか」
「そうだよね」
 そう話をしながら今度は酒を楽しむ。しかし牧村は今度は眉を顰めさせてそのうえでその彼等に対して声をかけるのだった。
「いや、それはいいがな」
「あれっ、好きにしたらいいって言ったからこうしてるのに」
「何かあるの?」
「御前等今ザッハトルテを食べてたな」
「うん、そうだよ」
「それが?」
 それを聞いてまずはいぶかしむ顔になるのだった。

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第四話 改造その五

「あるといえばあるな」
「じゃあテニス部も入ってみる?」
「テニス部もか」
「掛け持ちしても別にいいわよね」
「そうだな。時間的にはな」
 問題はなかった。大学生は高校までと比べて時間的にかなり余裕がある。だから掛け持ちをしても別に問題はないのであった。これは牧村にもわかった。
「ないな」
「じゃあどう?」
 あらためて牧村を誘う。
「テニス部。私もいるしね」
「わかった。じゃあ考えてみる」
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「答えはできるだけ早いうちにね。それにしても」
「それにしても。何だ?」
「来期君高校じゃ陸上部一直線だったのに」
 彼は高校まで陸上部にいた。若奈は高校から彼と一緒だからこのことを知っているのだ。
「今は複数掛け持ちなのね。変わったわね」
「悪いのか?それは」
「悪いって聞かれたら違うわね」
 それはそうではないと答えた若奈だった。
「別にね」
「どちらも大事になってくるな」
 牧村は髑髏天使としての考えにまた入っていた。
「これからな。余計に」
「フェシングとテニスが?」
「そうだ。勝つ為に」
 完全に髑髏天使になっていた。
「俺はやる。どちらもな」
「勝つ、ねえ」samantha tabasa
 当然ながら事情を知らない若奈にとっては今の彼の気合の入りようは少し不自然にも思えた。しかしそれはあくまで彼が熱中しているからだと思ってその考えに基いてまた言うのだった。
「随分と熱中しているのね、スポーツに」
「んっ!?スポーツか」
「どちらもスポーツじゃない」
 やはりここでも若奈の考えは彼がスポーツに熱中しているというものだった。
「だからよ。まあ何かに熱中できることはいいことだし」
「熱中か」
 ここで髑髏天使から牧村来期の考えに戻るのだった。
「俺は熱中しているんだな」
「他の何だって言われたら困る位にね」
「そうか、わかった」 
 まずは頷く牧村だった。
「それはな。むしろ熱中するだけでないと身に着かない」
「本当に燃えてるわね、今の牧村君って」
 実はこれに関しては若奈にとっては意外なことだった。何かにつけ無表情で無愛想な彼だからだ。それを知っている彼女にとってはやはり意外なのである。
「珍しいわね、本当に」
「そうか」
「まあとにかく。テニスもするのね」
「ああ」
「わかったわ。じゃあ今日の四限が終わった後でね」
 若奈の方で時間を指定してきた。
「テニス部の部室に来て。歓迎するわ」
「頼む」
 こうして彼はテニスもすることになった。この話はこれで終わりまずその部活に行く前に博士の研究室に顔を出しに向かった。しかしその研究室のある建物の前でもう博士が待っているのだった。
「おお、丁度いいタイミングじゃな」
「できたのか」
「これじゃ」
 見れば彼のすぐ側にサイドカーがあった。言うまでもなく牧村が乗っているそのサイドカーである。
「もうできておるぞ。立派にな」
「外見は」
 まずはその外見を見る。しかし何も変わったところはなかった。
「特に何もだな」
「外見はいじってはおらんよ」
「では何が変わったのだ?」
「変わったのは中身じゃよ」
 こう牧村に答えてきた。
「中身じゃ。色々とわかってくるわ」
「今はわからないのか」
「後のお楽しみじゃよ」
 笑顔で彼に告げるのだった。
「乗ってから、戦ってからのな」
「そうか。だが見たところ」
「何じゃ?」
「本当に何も変わってはいないな」
 外見を見る限りそうとしか思えないのであった。確かに何一つ変わったところはなかった。

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第十九話 夫婦その一

                  第十九話  夫婦
 道三は死んだ。信長は今は美濃を攻めることはせず相変わらず尾張の内政に周辺の国々の調査、それに伊勢志摩への調略に専念していた。静かと言えば静かであった。
 しかしだ。その中においてもだった。彼は柴田に林兄弟を招いてだ。そうしてそのうえで彼等に対してかねてよりのことを話すのであった。
「して、だ」
「はい」
「それではですな」
「いよいよ」
「うむ、そなた等に六千の兵を与える」
 それだけの兵をというのだ。
「そしてそのうえでだ」
「古渡の勘十郎様の下にですね」
「入られよと」
「これまでにもお話されていた通り」
「そうじゃ、それをするのは今を置いて他にはない」
 時から話すことであった。
「だからよ」
「伊勢志摩への調略が身を結ぼうという前に」
「そして今川が来る前に」
「美濃を手に入れる前に」
 織田家においてのさしあたっての懸念が話されていく。このことは信長だけでなく家臣達もよくわかっていることであった。
 特に柴田と林兄弟は信長の家臣達の中でもかなりの高位の者達だ。とりわけ柴田に至っては平手に次いで次席家老とさえされている程だ。
 だからこそ主の言葉に頷いてだ。そのうえで言うのであった。
「そうされますか」
「勘十郎様のことを終わらせる」
「今で」
「わかったな」
 また言う信長だった。
「では古渡に入るのじゃ」
「わかりました。ですが殿」
 ここで言ってきたのは林の兄であった。彼は考える顔になって信長に話すのだった。
「我等が勘十郎様の下に入ってもです」
「勘十郎はそなた等を信じぬな」
「その通りです」
 林兄が言うのはこのことであった。
「我等は間違いなく遠ざけられますが」
「それでも宜しいのですか」
「それで」
「構わん。あ奴に兵を渡すだけだ」
 それだけだというのだった。
「そなた等はただ兵をあ奴に渡すだけでよい」
「ではその後は」
「戦の場においてはどうされよと」
「我等は殿と対することになりますが」
「よい、勘十郎の傍におれ」
 信長は造作もないといった調子で述べた。
「それでよい」
「左様ですか、それでは」
「そうさせてもらいますが」
 柴田達は信長の言葉に頷くしかなかった。主である彼が言うからにはだった。
 そのうえで彼等のすることは決まった。信行の下にその六千の兵と共に入ることがだ。それが決まったのであった。
 彼等が信行の下に入る。それからであった。
 信長はこう残った家臣達に話すのであった。
「して次はじゃ」
「はい」
「何をされますか」
「美濃との境に兵を進める」
 そうするというのである。
「よいな」
「美濃との境にですか」
「そこに兵をですか」
「残る九千の兵をですか」
「左様、よいな」
 こう家臣達に話すのである。
「そうするぞ」
「そうして清洲を空にしたうえでなのですね」
「勘十郎様にあえて兵を挙げさせる」
「そうされると」
「左様、わかったな」
 これが信長の考えだった。策であった。
「そうしてじゃ。この話は早いうちに終わらせる」
「迅速に終わらせる」
「そうされると」
「さもなければ今川や斉藤に付け込まれる」
 だからだというのだ。中でのいざかいがどれだけ外にとって都合がいいのか、信長はこのことを熟知していた、だからこそだった。

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